弁理士近藤充紀のちまちま中間手続68
拒絶理由 進歩性
引用文献1には硫黄と5B族元素であるニオブとを含有する水素化精製用触媒が記載されており、該触媒にさらに6B族元素であるモリブデン,タングステン等の硫化物を含有させることも記載されているから、本願発明は引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものといえる。
意見書
引用文献1には、三硫化ニオブ(NbS3)を含む水素化改質触媒が開示されている。これに対して、本願請求項1の触媒は、少なくとも1種の第VB族金属および第VIB族金属の混合硫化物を含んでいる。すなわち、本願請求項1の触媒は、第VB族金属および第VIB族金属の両方からなる混合硫化物であって、第VB族金属の硫化物と第VIB族金属の硫化物の混合物ではない。それ故に、本願請求項1では、硫化物の相が引用文献1のものとは全く異なっている。引用文献1には、その段落[0020]に「担体上にその他の金属を担持させることもできる。従って、最終触媒中に上記ニオブ以外にも、ニッケル、モリブデン、コバルトもしくはタングステンの硫化物などの水素化精製用触媒として用いられる他の金属硫化物が存在していてもよい。」と記載されており、これは、各種金属の硫化物の混合物を明らかに示しており、本願請求項1のような混合硫化物相の開示は引用文献1中に全く見出すことができない。
さらに、本願明細書では、請求項1の発明について、段落[0062]および[0063]の表4および表5において、単一種金属の硫化物またはその混合物を、本願請求項1に係わる混合硫化物相と比較している。また、段落[0015]~[0023]には、X線回折により、本願請求項1の特徴である混合硫化物相(Nb0.2Mo0.8S2等)と単独硫化物相(MbS2)とを区別する方法が詳細に説明されている。段落[0024]~[0027]には、混合硫化物の調製方法が説明されている。段落[0079]の実施例11には、調製された各触媒がEXAFS技術によって分析され、単独金属からなる硫化物相が形成されたか混合硫化物相が形成されたかが決定されている。
段落[0107]の表8には、本願発明による混合硫化物相を有する触媒D1~D6が、モリブデンのみ(A1)またはニオブのみ(B1)の硫化物相を有する触媒よりも活性が高いことが示されている。また、他の表(表6、7、9、11、12、13)にも、本願の混合硫化物相の触媒がより良好な性能を示すことが示されている。
以上説明したように、本願請求項1は、混合硫化物相を有するものであり、硫化物の混合物を有する引用文献1の触媒とは全く異なっており、また、引用文献1の記載から容易に想到することができないものである。さらに、本願請求項1の触媒が混合硫化物相を有することにより、硫化物相を有する触媒よりも優れた効果を有することも明細書中に示されている。
したがって、本願請求項1は、引用文献1に基づいて容易に想到することができないものである。
拒絶理由 36条4項
本願発明の詳細な説明中に記載された実施例などの記載からは本願発明が公知技術に比べてどの程度効果を奏するものであるのかが明瞭でなく技術的意義が明確とは認められない(この点に関し、平成19年4月19日付け意見書第3~4頁の「(3)拒絶理由1について」において、出願人は本願発明の触媒は引用文献1の触媒のような硫化物の混合物ではなく混合硫化物であって、段落[0062]~[0063]の表4,5に示されるように本願発明の混合硫化物と単一金属の硫化物の混合物とを比較すると差があることを主張しているが、本願発明の詳細な説明中の表4,5をみても単一金属の硫化物の混合物についてのデータは見当たらずその点について確認をすることができない。よって、本願発明(混合硫化物)が先の拒絶理由で引用された特開平7-96192号公報の公知技術(硫化物の混合物)に比べてどの程度優れた効果を奏するものであるのかが不明瞭である。意見書を提出してその点について釈明する等されたい。)。
意見書
当初明細書の段落[0022]には、その7~9行に「第二ピークの最大の位置が金属・金属(ニオブ・ニオブまたはニオブ・モリブデン)の平均距離R2を示し、その平均距離の値は、表3に示されるように混合相の組成に応じて変化する。」と記載され、段落[0023]の表3には、混合相の組成に応じてMo含有量が多くなるほどR2が短くなることが示されており、EXAFS(広域X線吸収微細構造:段落[0015]を参照)によって測定された金属・金属の平均距離R2の値が、単一のニオブ硫化物(R2=3.33)と混合ニオブ-モリブデン相(3.20~3.31)とが同一でなく、これらを明確に区別することができることが示されている。
このような前提の下で、段落[0062]の表4には、触媒Eが混合硫化物相からなる本発明に合致するものであり、触媒F1およびF2が単一硫化物相の混合物からなる本発明に合致しないものであることが示されているが、このことは、段落[0080]の表7において、ニオブ硫化物相のみを含む触媒B1のR2が3.33であり、触媒EのR2が3.21であり、触媒F1およびF2のR2が3.33であることから明らかである。
本発明に合致する触媒Eと本発明に合致しない触媒F1およびF2との触媒活性の比較の結果は、段落[0122]の表10(ガスオイルの水素化脱硫における触媒の活性度)、段落[0137]の表11(脱硫済ガスオイル中の芳香族化合物の水素化における触媒の活性度)、段落[0150]の表12(減圧留分の水素化処理におけるNiMo触媒の活性度)、段落[0168]の表13(減圧留分の温和な水素化クラッキングにおける触媒の活性度)および段落[0180]の表14(減圧留分の高圧水素化クラッキングにおける触媒の活性度)に示されている。混合硫化物相を含有する触媒Eが、種々の水素化分解または水素化脱硫試験において、単一のニオブ硫化物相を含有する触媒F1またはF2よりはるかに活性であることがこれらの表を参照することにより理解され得る。触媒Eはまた、ニオブを含まない触媒A0(単一のモリブデン硫化物相)より活性である。
また、段落[0190]の表15においては、触媒Eよりも、触媒F1およびF2の方が、ガソリンの水素化脱硫における触媒の活性度について、より良好な活性を有するように記載されているが、段落[191]において、触媒Eの活性が、他の全ての触媒A0、F1およびF2の活性よりも良好であることが教示されていることから、表15では、EとF1の値が入れ替わって表記した明らかな誤記があり、実際には、触媒E1の活性度は[,90.0であり、触媒F1の活性度は88.3であり、正しくは、添付の表15’のようになるべきであったものである。
以上に説明したように、本願の出願当初の明細書には、本願発明が公知技術に比べてどの程度効果を奏するものであるかが明確に記載されており、本願明細書の記載は、当業者が本願発明を実施することができる程度に十分に開示したものであり、特許法第36条第4項の規定を満たしている。
特許査定
本件「混合硫化物」と引例「硫化物の混合物」との相違点により進歩性を主張。相違している点について厚めに説明しておいたつもりが、すんなり登録とはならず、さらなる拒絶理由が通知されたが、そこもなんとか対処できて登録。