弁理士近藤充紀のちまちま中間手続76
拒絶理由 進歩性
引用例1には、銀/パラジウムの重量比が0.05~0.4で、その80%以上が表層に存在する触媒が記載されている。本願発明の触媒とは、前記銀/パラジウムの重量比のみで相違するが、他の範囲の値も当業者であれば実験により行い得る範囲のものであり(引用例2:5頁左下欄9,10行,引用例3:請求項3参照)、0.4という値にも臨界的意義はないから、本願発明を構成することは、当業者であれば容易になし得るものである。
引用例4には、アルミナ担体にパラジウム0.3~3.0重量%及び金を0.0157~1.8重量%含有し、該アルミナ担体の表層から中心に向かって30%以下の部分に、パラジウムと金はそれぞれ90%以上が存在するように担持された触媒が記載されている(特許請求の範囲,第1表参照)。
意見書
引用文献1には、銀/パラジウムの重量比が0.05~0.4で、その80%以上が表層に存在する触媒が記載されている。
本願請求項1と引用文献1に記載された触媒とを比較すると、その銀/パラジウムの重量比が本願請求項1では0.5~3であり、引用文献1に記載された発明では0.05~0.4である点、および、本願請求項1では、「金属粒子の少なくとも30%が、パラジウムと銀とを同時に含んでいる」ことを規定しているのに対して、引用文献1ではこのような規定がない点で相違しており、他の点では一致している。
拒絶理由通知によると、「0.4という値にも臨界的意義はない」と認定されているが、本出願人は、この認定について同意することができない。引用文献1の実施例12~14によると、本出願の触媒と同様にして調製された触媒J(Ag/Pd=0.4)およびK(Ag/Pd=0.2)について、Ag/Pd比=0.2で最良の安定性が得られている。しかしながら、銀の含有量が増加すると安定性が減少することが想定されるため、当業者は、銀含有量を増加させ、0.4より大きい、したがって0.5より大きいパラジウムに対する銀の比を得ることに想到しないと考えられる。
また、引用文献1では、引用文献1に対応する特開平8-53375号公報の表1等に示されるように、安定性を有する触媒を提供することを目的としており、触媒の不活性化抑制については何ら開示されていない。
本願発明は、その明細書の段落[0011]の1行目「経時的にできるだけ変化しない」(安定性)、かつ、7行目「不活性化は、できるだけ少ない」(不活性化抑制)触媒を提供することを目的としている。
本願明細書の実施例を参照しながら具体的に説明する。
本願明細書の段落[0039]および[0040]に示されるように、Ag/Pd比が0.5~3であり、かつ、金属粒子の少なくとも30%が、パラジウムと銀とを同時に含んでいる、触媒A、B、C、Fでは、安定性および不活性化抑制の双方ともに好ましい結果が得られたのに対して、Ag/Pd比が0.1である触媒Dでは、安定性が良好であるものの、不活性化抑制の効果は、上記触媒A等よりも低く、金属粒子の2%だけがパラジウムと銀とを同時に含む触媒Eおよび8%だけがパラジウムと銀とを同時に含む触媒Gでは、安定性および不活性化抑制の双方において上記触媒A等よりも劣っていることが明らかである。
したがって、Ag/Pd比が「0.5」は、触媒の安定性および不活性化抑制の両方において重要な意義を有しており、臨界的意義を有するものである。
このような効果は引用文献1には開示されていない。
引用文献2には、1,3-ブタジエンの液相選択的水素化触媒であって、銀がパラジウムの表面上に沈積しかつ担持されたものが開示されている。引用文献2に開示された触媒は、高比表面積のアルミナ担体および0.3~5の銀/パラジウム重量比が示されている。しかしながら、引用文献2によると、当業者は、非常に特別な方法(パラジウム上への銀の沈積)で触媒を調製することに想到するだけだろう。
これに対して、本願請求項1によると、銀およびパラジウムの前駆体の両方を含む溶液が担体上に含浸させられ、これにより、金属粒子の少なくとも30%がパラジウムおよび銀の両方を含むようにさせるようにしている。
引用文献2では、触媒の表層部でのAg/Pd比が全く開示されておらず、金属粒子の少なくとも30%がパラジウムおよび銀の両方を含むことも開示されていない。
しかしながら、引用文献3には、金属粒子の少なくとも30%がパラジウムおよび銀の両方を含むことは開示されていない。
引用文献4には、気相でのエチレン、酸素および酢酸の反応を通じた酢酸ビニルの製造のための触媒が開示され、触媒は、パラジウムおよび金の両方を含んでいる。しかしながら、引用文献3は、本願発明とは異なる技術課題を扱っており、所定の銀/パラジウム比を有する触媒をアセチレン性化合物の選択的水素化に適用することに想到することはできないだろう。
また、引用文献4には、金属粒子の少なくとも30%がパラジウムおよび銀の両方を含むことは開示されていない。
以上に説明したように、本願請求項1は、引用文献1~4に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、本願請求項1は進歩性を有する。
本願請求項2~7は、請求項1の従属項であるから、請求項1が進歩性を有することにより、当然、これらも進歩性を有する。
拒絶査定
出願人は、意見書において、本願発明は、銀/パラジウムの重量比が0.5~3であるのに対し、引用文献1に記載された発明では、0.05~0.4である点、及び、本願発明では、「金属粒子の少なくとも30%が、パラジウムと銀とを同時に含んでいる」ことを規定しているのに対し、引用文献1ではこのような規定がない点で相違しており、本願発明は、引用文献1~4に基づいて容易に発明することができたものではない旨主張している。
出願人の上記主張について、検討する。
引用文献1では、銀/パラジウムの重量比は、最大値として0.4が記載されているにとどまる(実施例12)。しかし、引用文献1において、パラジウム含有量は0.01~0.5重量%、銀含有量は、0.001~0.02重量%と規定されており、銀/パラジウムの重量比の最適な範囲を決めるに際して、上記含有量の範囲において、0.4を超える重量比まで変化させる必要があると考えられる。また、本願発明において銀/パラジウムの重量比の下限は0.5であるが、重量比0.5に近い実施例として、重量比0.6(実施例6、触媒F ただし、実施例6のパラジウムと銀の重量比から計算すると、重量比は1.2となる)及び重量比1.04(実施例3、触媒C)が記載されているにすぎず、0.5の範囲まで明細書記載の効果を奏するとはいえない。しかも、本願発明の実施例の「安定性」は、同じ条件で測定された引用文献1の実施例の「安定性」よりも大幅に劣り、触媒として優れているのか疑問であり、銀/パラジウムの重量比が0.1である比較例(実施例4)はあるものの、他の重量比での比較が不十分であるから、引用文献1に記載の発明より「不活性化」の点で特に優れているともいえない。したがって、銀/パラジウムの重量比を0.5以上の値とすることは、当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。
次に、本願発明の実施例によれば、本願発明の触媒は、パラジウム・ニトレートと銀ニトレートとを含む硝酸溶液60mlを、アルファアルミナベースの担体に含浸させ、120℃で乾燥し、空気下750℃で焼成することによって調製される。引用文献1に記載の実施例の触媒の調製方法も、上記本願発明の触媒の調製方法と全く同じである。しかも、同じ調製方法を採用し銀/パラジウムの比の み相違する本願発明の比較例(実施例4)は、引用文献1に記載の発明の銀/パラジウム重量比を満たすが、金属粒子の35%がパラジウムと銀とを同時に含んでいるとされている。そうすると、上記「金属粒子の少なくとも30%が、パラジウムと銀とを同時に含んでいる」点は、引用文献1に記載の実施例の触媒も満たすといえる。
以上のとおりであるから、出願人の主張は、採用できない。